永遠の卵

ウテナメモ

DUEL:31「彼女の悲劇」<少女革命ウテナ>

 

あら負けちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DUEL:31「彼女の悲劇」

放送日:1997年10月29日

脚本:比賀昇 絵コンテ:錦織博
演出:岡崎幸男 作画監督林明美

 

七実さま最後の前後編。(わたし的)テーマは、七実七実であるということの意味とその理由。彼女が彼女であるために大切なもの。そしてそれこそが彼女の悲劇。

 

3つの関係。

DUEL:29までに、結果がどうあれいくつかの"関係"に決着がつきました。西園寺とアンシー、幹と梢、樹璃と枝織、等々。そして残すは4つの関係。うちひとつは西園寺と冬芽をつなぐものですが、これは残り3つとは少し性質が異なるので、今回は端っこに寄せておくとしましょう。

さて、3つの類似した関係性とは。ひとつは、DUEL:01から延々と語り継がれてきたあの昔話。"王子さま"とウテナの関係性です。このふたりをつなぐのは、ひとえにウテナからの"王子さま"に対する"憧れ"であるといえるでしょう。それは限りなく恋愛感情に近いものとしても受け取れますが、そこに漂うのはどちらかというとある種の健全さです。つまり、性愛とは少し離れた場所にある。たどり着くのがいかなる場所だとしても。

ふたつめ。暁生とアンシーの関係性です。暁生は、ウテナが憧れを抱く"王子さま"とは正反対に、生身の人間です。このふたりの間にあるものは、完全なる恋愛感情。しかも性愛。欲望の言い訳。ラブコメ風にいえば、LIKEじゃないんだ、LOVEなんだ。

 

このふたつは、いわば本題です。この物語におけるテーマです。そのメインイベントが、この前後編のあとに用意されているというわけです。そしてこの前後編で描かれるものというのが、みっつめ。冬芽と七実の関係性です。つまり、七実さまの物語というのは、その本題がついに語られますよという前兆のようなものでもあるのです。

このふたりの関係性は、結論からいってしまえばひとつめの、ウテナと王子さまパターンにより近いものであったと考えられます。ただ、七実から冬芽への想いというのはずっと、暁生アンシーパターンで描かれてきたように思います。しかし、今回でそれはひっくり返されました。七実が求めていたのはもっとプラトニックなもので、それは一種の労働のようなもので、罰でもあり、ご褒美でもあるのです。七実は、本エピソードの最後でアンシーに対する嫌悪を(より)強めることとなりますが、それがその証なのです。

ところで類似した関係性といいながら大して似てないじゃないかって突っ込まれそうなので3つの共通点について。それは、つまり呪いです。呪縛なのです。ウテナは、王子さまの姿をした幻想と魔女にずっっと縛られてきました。そしてそのご褒美として、成長という名のもとに生身の男を手に入れようとします。ちなみに暁生もまた王子さまに縛られた人間のうちのひとりですが、アンシーを魔女として永遠の地獄に縛りつけるのは、他でもなく彼です。冬芽もまた、七実に呪いをかけます。それは"悲劇"という形をした呪いです。悲劇はうつくしく、見るものの心を動かします。彼はそれをひとりで演じるのでは飽き足らず、実の妹を自らの作り上げた悲劇の中に取り込もうとするのです。理想、依存、美。この3つの支配という名の呪いはすべて、"世界の果て"によってかけられたものでした。果たしてその呪いを解く方法は見つかるのでしょうか。残念ながら、七実は世界に閉じ込められたまま。なぜなら、"世界の果て"が決めたことだから。

 

Tでつながる私とあなた。

本筋とは関係のない話を長々としてしまいました。ここからはちゃんと本エピソードについてお話をしたいと思います。

 

彼女の優越。

わたしはあんたたちとは違う。
わたしとお兄さまは兄妹なんだから。
血がつながってるんだから。

今回の重要アイテム、テレフォン(携帯電話)。冬芽のもとには、ありとあらゆる女の子たちから電話がひっきりなしにかかってきます。七実はそのことに少しの嫉妬を感じつつも、それ以上に優越感を抱いていました。なぜなら電話でつながるガールフレンドたちなんかより、七実と冬芽にはもっと深いつながりがあるからです。それが、血。ふたりは血を分けた兄妹なのです。七実はこれまでそのことを支えとし、強固なアイデンティティを構築してきたといえるでしょう。

 

彼女の崩壊。

しかし、ふたりは実の兄妹ではないという疑惑の浮上によってそれは一気に崩壊。自らもこれまで見下していた、携帯電話でつながるしか能のない"虫"でしかなかったという事実と自覚(DUEL:21「悪い虫」参照)。そしてそれを見計らっていたかのように質の悪い"ジョーダン"で七実を振り回す冬芽。

 

おさる少女。

が復活。なぜか映画の撮影をしているウテナとアンシー。王子さまになりたいアヒルの子。ダボハゼになりたいアヒルの妹。

ならないと思うよ。 

だってほんとはカッコーの兄妹なんだもん。

 

 

彼女の拒絶(後出しじゃんけん)。

七実は、暁生とアンシーの情事をついに目撃してしまいます。大ショックです。びっくりです。ドン引きです。暁生とアンシーについて、

 あんなにかっこいい人がきょうだいだったら誰だってメロメロよ。

などと言っておきながら。

七実の性的なものに対する忌避感というのはDUEL:27「七実の卵」で触れたとおりですが、それにしてもこの拒絶っぷり。迎えにきた冬芽に対しても拒絶。これまでの関係性の崩壊。それが大きな大きなものであり、彼女を混乱させているということは確かなのでしょう。でもこれまでの七実さまの印象から考えるに、ここで彼女は大喜びしていてもいいはずだった。でもそうではありませんでした。七実と冬芽は、暁生とアンシーのように対になった存在ではないのです。七実は冬芽のお姫さまになりたいわけじゃない。彼女は、冬芽を自分の中の一部として捉えていました。かつてウテナが、"王子さま"と対になる"お姫さま"になるのではなく、"王子さま"と自分とを融合させてしまった時のように。そしてそれは呪いとなって、彼女たちを永遠に縛りつけるのでした。

お兄さまはお兄さまよ。
今までのこと、ナシになんてできないわよ。

 

 

LA BANDE

一度好意をもった相手のことはなかなか疑えないものですよ。
まさか自分を騙して利用してるなんてね。

盛大なネタバレ、そしてブーメラン。薔薇の花嫁はそのことに気づいているのでしょうか。

冗談ですよ。