永遠の卵

ウテナメモ

DUEL:32「踊る彼女たちの恋」<少女革命ウテナ>

 

今何時だと思ってんのよ。
名前くらい言いなさいよ。バカ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DUEL:32「踊る彼女たちの恋」

放送日:1997年11月5日

脚本:比賀昇 絵コンテ:松本淳・金子伸吾
演出:金子伸吾 作画監督相澤昌弘

 

DUEL:31から引き続き、七実さまの果て後編です。自分の居場所とルーツ、存在意義について悩み抜いた彼女の導かれたその果てとは。

 

彼女たちの誇り。

冬芽が温室でイチャコラしていた相手は七実の側近、茎子さんでした。これは完全なるあてつけですね。冬芽は七実が盗み聞きしているのもわかった上で、茎子さんに七実が実の妹ではないことを打ち明けます。冬芽は七実にやさしく接していたという思い出を、

あんなのお芝居さ。

と一蹴し、さらに追い討ちをかけるように、

...俺が相手にするはずないだろ。
あんなありきたりでつまらない女。

などと言い放ちます。それを聞いて喜ぶ茎子。まあもともと七実さまと茎子さんの間に友情なんてあってないようなもんですが、それにしてもこれはまさに"呪い"です。一人の男を二人の女が奪いあっているように見えて、その実裏で糸を引くのは男の"嘘"。一人の王子さまに選ばれ、愛されるということがこの世界でどれだけの価値を持つことなのかということを、王子さまは誰よりもよくわかっているのです。だからこうしてわずかな誇りを気まぐれに差し出してやる。そしてバカな銀蠅たちと嘲笑う。友情や、真実の愛なんてないのだというハリボテの虚無主義をひけらかしたくてたまらないのだ。

あんたとあたしのどこが違うっていうの?

冬芽との関係ついて七実に追及された茎子はそう問いかけます。王子さまの携帯電話は鳴り止まず、ついに七実は"絶望"を口にします。彼女は王子さまの妹であるという誇りを失ったのです。

同じになっちゃったんだ。わたし。
お兄さまに群がる銀蠅みたいなあの女たちと。
もう、わたしとお兄さまをつなぐものは何もないのよ。
何も。

蛇口を壊したのは誰でしょうか。溢れ出る涙は誰のため?。誇りを奪ったのは誰なんだろう。殺虫剤を撒くのはいつだって同類の虫。でも、

お部屋の臭い消しですよ。それ。

 

他人のリンゴで生き永らえる。

生きる屍となったフィナンシェ・香苗さん。

 

怖すぎる。こいつ。

ふたりだけの時間を、楽しませてあげてください。

暁生と香苗さんを呼びに立ったウテナを止めるアンシーが、ノコギリを手にしたまま放った台詞。ウテナは超純粋に受け取りますが、暁生とアンシーの関係性を知っている七実は、アンシーに対する嫌悪を強めます。 

 

ふたりのベッドルーム。 

暁生とアンシーを、"おぞましい兄妹"と言い切る七実さま。

あいつらと一緒にしないで。

七実は自分の兄にいったい何を見ているのだろう。自分たち"兄妹"の関係性に、どんな幻を見ているのでしょうか。

 

 

車とハイウェイ、世界の果て。

だから最後に知りたいの。
本当のお兄さまのことを。

七実のみる"世界の果て"は、"本当のお兄さま"の姿です。それを知ることで、自分自身の"普通"を取り戻せる。自分の存在を肯定できる。彼女は愛してやまない"本当のお兄さま"に手を伸ばす。そしてそれこそ殺虫剤。

本当に君が見るべきものはそこにはない。

暁生がまたわけわからんこと言ってますが、つまりアンシーと暁生との関係性が"おぞましいもの"に見えるのは、七実が狭い視野でしか物事を見ていない・自分のみたいようにしか物事を見ていないからだと。いつまでもその迷宮で"幻想"を抱いていないで、"本当のお兄さま"を見なさい。自分や兄の欲望、つまりは汚い部分に向き合い、"兄妹愛"などという綺麗ごとは存在しないということに気づきなさい。ということです。(意訳)

 

影絵少女

うさんくさ〜い
そんなのトリックに決まってるわ。

妹が兄を慕うこと。兄妹愛。そんなのは胡散臭い。何か裏があるに決まってる。それはたとえば性欲であったり、自分の"誇り"のためであったり。七実は王子さまに愛されたいから、選ばれたいから自分に媚びているだけ。本当にただ純粋に自分を愛してるだなんて、そんなわけない。

そんなのペテンよインチキよ。

行き場を失った念力。疑うのは実に簡単なことで、信じるのは難しい。それがたとえすぐ目の前に差し出されていたとしても。

 

永遠を運ぶゴンドラ(決闘広場)

 お兄さまはわたしがわたしであることの一部だった。

天然同胞宮殿遠近法の書」。

 

桐生七実の果て。

本当のお兄さまを探したその先のお話。彼女が導かれた世界の果て。そこには、

何もなかったのよ。

七実の愛したかっこよくてやさしい兄。でもそれはハリボテで、幻で、出口のない迷宮の中で見ていたただのダボハゼ。それを光り輝く何かだと勘違いしていたというだけのこと。彼女は光を見ていました。

でも、何もなかった。

 

その想いの結末。

前回ウテナ・王子さまの関係性と、七実・冬芽の関係性は似通っているというお話をしました。それを踏まえると、

あんたは信じていればいいわ!
その想いの結末を!

という七実の言葉が大きな大きな意味を持つことになります。七実が冬芽に抱く"想い"は、今回で終焉を迎えました。でもまだウテナは信じています。自分の"王子さま"への想いの結末が、ハッピーエンドであることを。

 

大人のベッドシーン。

でも、血のつながらない兄妹だと思われてた方が、ロマンティックですよね。

七実は、名乗りもせず電話を寄越すガールフレンドたちや、茎子さんとはまったく違います。七実は冬芽に王子さまを求めない唯一の存在になりえた。でも愚かなダボハゼは、彼女の愛を超能力のように存在しないものと決めつけ、インチキだとこき下ろし、あげくに平気でポイ捨てします。それがこの世の真理だとでもいうように。でも七実が冬芽を慕う気持ちって、ほんとうに珍しいものだとおもいます。冬芽はこんなことを言ってますが、自分が作り上げた嘘なんかより、目の前の現実のほうがよっぽどロマンティックだとはおもいませんか?

 

LA BANDE

この薔薇を、今夜お兄さまに届けてくれませんか?

次回。天上ウテナの果て。