DUEL:17「死の棘」<少女革命ウテナ>
ねえ、あんたがいつもやってるこれ、どういう意味?
DUEL:17「死の棘」
放送日:1997年7月23日
脚本:月村了衛 絵コンテ:松本淳
演出:桜美かつし 作画監督:香川久
第17話の脚本は初の月村了衛さん。この方の書く脚本はすきでもあり、きらいでもある。タイトルがかっこいい。
樹璃回です。DUEL:7で彼女が片思いをしていたお相手・枝織が学園に戻ってくるところから。
水槽に咲く橙の薔薇、毒と鳥。
今回のお話では、黒薔薇会のふたりは樹璃の想い人・高槻枝織をターゲットとします。枝織はある事情により学園を離れていましたが、この回から出戻ってきました。
馬宮の水槽の薔薇は、樹璃の髪の毛の色と同じ橙色で、はじめは黒薔薇ではありません。この橙の薔薇(=樹璃)の棘(=樹璃の心の剣)が馬宮たちには必要でした。しかしその棘こそが邪魔をして、彼らは薔薇を摘み取ることができません。この橙の薔薇を黒薔薇にしウテナを倒すため、橙薔薇の天敵・虫の毒(=枝織)を利用しようという企みです。
この薔薇やその棘、天敵の虫の毒という比喩はわかりやすすぎず、でもわかりづらすぎず、ちょうどよいです。なんかかっこいいしね。しかしこんな暗喩だらけの作戦会議、伝わる方がすごいや。
そして、メタファーといえばもうひとつ。鳥です。転入してきた枝織はなんとか樹璃との友情を取り戻そうとするのですが、当の樹璃はそんな彼女に素っ気ない態度で応えます。その時に窓ガラスにぶつかってきた鳥。この鳥は、決闘広場の机の上にもいるので要注意。これはたぶん、枝織の心だとは思うのですが、よくわからない描写です。鳥=枝織だとすると、樹璃につれなくされれば、彼女もそれなりのショックは受けるということみたいです。皮肉っぽい言い方ですが、わたし自身は枝織に対してそこまで悪感情はありません。けっこうわかりやすい単純な子じゃないですか、梢とかとちがって。言い難いですが(嫌われキャラなので)けっこう共感できちゃう。まあ彼女の闇とかについては後々。
生徒会(事情聴取)
今回の生徒会は、七実による幹への審問です。生徒会とウテナ以外にデュエリストがいる、しかも幹(と梢)も関わっているとなると、生徒会的にはちょっとまずいということなのでしょう。
やっぱり痛いの?
心の剣が抜かれるということは、いったい何を意味するのでしょうか。察しましょう。
プラネタリウム(理事長室)
だがその無邪気さが人を傷つける。気を付けないとね。
ほんとにね。ちょっとは気をつけてくれたまえよ。
そして枝織やウテナの無邪気な残酷さに傷つけられた樹璃の気高き薔薇は、黒く染まってゆきます。
⇨⇨⇨⇨⇨面会室(高槻枝織)
枝。
高槻枝織の闇
枝織の闇っていうのは、樹璃のことを「心から信頼できる人」などと言っておきながらその実「子供の頃から樹璃さんが憎かった」。でもこれはまだ蝶。目立たず、地味な存在だった枝織は、なんでもできちゃう樹璃に嫉妬をしていました。わからないけど、ここまでならたぶん樹璃は受け入れてくれるんじゃないだろうか。これだけならたぶん、彼女は枝織の"王子さま"でいられた。
深く、もっと深く。
蛹。でもこのふたりの利害はほんとうに一致しない。樹璃が枝織の"王子さま"であろうとすればするほど、枝織は惨めになります。樹璃の"大切なもの"を奪ったって、その気持ちは変わりません。なぜなら樹璃はそんなことくらいじゃ本当に動揺はしないからです。彼女の"大切なもの"は、もっと他にある。
高槻枝織の毒
芋虫。気高き王子さまの秘密を知ってしまった虫の毒。枝織の心はこれまで樹璃への妬みと憧れでいっぱいだった。そして"いっぱい"だという事実がまた、彼女には耐えられませんでした。だからいつまでも惨めなのです。しかし形成大逆転。ほんとうに"いっぱい"だったのは樹璃のほうでした。嬉しくて嬉しくてたまらない虫。でもそこには喜びだけでなく、戸惑いと拒絶も同居しているのです。それこそが彼女の毒。事実を知られることそのものと、その事実への反応に傷つくことは別です。喜びを示すも、拒絶するも、すべては枝織の自由。樹璃にはどうすることもできません。その自由は、樹璃にとっては毒に他ならないでしょう。その毒を以ってすれば、彼女の棘を抜くことなど容易いことです。
号外!
脱げば?
毛糸のパンツ3枚もはいてスカートもっこりしちゃわないですか?
地下の教室(決闘広場)
「地球は人物陳列室」。
ペンダントの中身
ペンダントの中身は、樹璃の心の中身。中身を知ってしまった枝織は、彼女の心を支配したも同然です。
私は奇跡を信じない
樹璃は断言します。そうであるなら、彼女がウテナに勝てるはずもありませんし、枝織もまたそうです。鳥は飛び立つしかありません。
彼女の本質
あの人は変わってませんよ。全然。
枝織との初対面のあと、彼女の部屋を意味深に見上げていたアンシーの言葉です。アンシーはどんな"仕掛け"をしたのかな。
それはいいとして、枝織の本質です。樹璃を支配したい、樹璃より高い位置に立っていたい。「心から信頼できるのは樹璃さんだけ」。「いつも私を守ってくれた」。「でも樹璃さんが憎い」し、「大切なものを奪いたい」。たぶんこれらの言葉に嘘はなく、今回の話の中で枝織のこの気持ちはいっさい変わっていないのだとおもいます。彼女にはおそらく、闇も光も、地下も地上もありません。
でも、本当にそうでしょうか。樹璃の心と、その心を支配する自由を手にいれた枝織には、なんの変化もなかったのでしょうか。"毒"はまだなお健在で、それは気高い薔薇にもまだ回り続けていますが、虫もまた自らのそれに毒されているのではないでしょうか。
なぜ私は強くなれないんだろう。
そして樹璃の本質。求めるものはただひとつ。否定したいのもただひとつ。そこにはいつも諦めが彷徨っていて、その諦めを池に捨てることが"強さ"なのだとしたら、それが彼女の本当に欲しいもので、そして本当にそれが自分の欲しいものだと思っているのなら、たぶんそれは見当違い。
樹璃が強くなれば、というか強くなろうとすればするほど、枝織は惨めになるし、苛立ちを感じることでしょう。枝織が樹璃に求めるものって、たぶんそういうものじゃないはず。そのペンダントを捨てることに、たぶんなんの意味もない。最初から。
樹璃は奇跡を信じることができない。それが彼女の弱さだとは思えないし、言いたくもないのだけど。でもなぜ枝織が樹璃の薔薇をまっ黒くするほど彼女に固執しているのか、なぜそんな毒を持ち合わせていたのかを考えてみれば、それは。*1
LA BANDE
審問は、もう終わりなのかい?
樹璃と枝織は、樹と枝なのですよね。樹と枝の関係性って...なんだ。
*1:それはわたし好みの百合になる