永遠の卵

ウテナメモ

DUEL:36「そして夜の扉が開く」<少女革命ウテナ>

 

立っていると危ないぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☞ DUEL:36「そして夜の扉が開く」

放送日:1997年12月3日

脚本:月村了衛 絵コンテ:錦織博高橋亨
演出:高橋亨 作画監督:田中孝弘

 

そして夜の扉は開きます。夜の扉。チュチュのほる穴の中。地下のミミズ。深入りしてはならないもの。でも戦わなきゃならないもの。

 

☞ 女の子。

私には今、彼女が女の子に見える。

ウテナの姿をみた樹璃先輩の台詞です。DUEL:33 をみたあとなら、ほとんどの人がそう感じてるかもしれない。幹がいうように、ウテナは女性です。物語がはじまった時からずっと、彼女は女の子。でも、そういう意味じゃないんです。ウテナはもう男装の麗人じゃなくって、気高きウテナさまじゃなくって、ひとりの男の手に堕ちた、単なる、女。あなたは誰?そういうことですよね。

DUEL:33をみたほとんどのひとが衝撃を受けるのは、主人公だと思っていた、何にも勝るヒーローだと思っていた男という名前の少女が、ただの愚かなクソビッチだったから。ハッピーエンドのお伽話だと思っていたアニメが、ドロドロの愛憎劇だったから。なんだろう、このささくれた嫌な空気は?

BGMと演出のせいですね。クソビッチ上等。ドロドロ上等。男とセックスしようが、その模様が夕方6時からお茶の間で流されようが、ウテナウテナです。夜の扉なんて開けゴマ。

 

☞ 盗んだバイクで走り出す。

いやなのは支配されることだ。

西園寺が反抗することは、ただしい。この支配からの卒業。なのに、彼はバイクを運転することがきない。冬芽が世界の果てに従うのもまた、ただしい。でも彼は盗んだバイクで走り出す。

冬芽がはじめて自分でものを考えるようになったってのは、まあ、よいことだとおもう。でももう手遅れかもしれません。彼はもうじき大人になります。王子さまじゃなくて、ただの人間の大人になる。この支配から逃れても、その先にあるのはたぶん、さらなる支配。車を運転しても、お城で暮らしても、彼はただの人間です。

俺たちは棺の中から這い上がるのだ。
世界の果てによって用意された棺の中から。

でも、立っていると危ないんです。それが大人になるということなの。命を失っても立ち上がるか、それとも棺の中で安全に過ごすか。

お願い。この棺を開けないで。

かつてそう願った女の子は、いったいどんな選択をするのでしょうか。

 

 

 ☞ ふたりのベッドルーム。

ねえ、チュチュ。
姫宮がこうしてお兄さんに会いにいっている間、君はいつもひとりでお留守番していたのかい?

これは、前に2ちゃんねるかどっかで面白い解釈をみたのでメモ。 チュチュ=アンシーの心・本心だと捉えるなら、彼女が兄とセックスしている間、彼女の心はいつもひとりでお留守番。なのである。そして置いてけぼりにされたアンシーの心を汲み取るウテナのやさしき心。しかし彼女もまたその心を置き去りに、偽の王子さまに連れられていくのです。

 

☞ 夜の決闘広場(猿芝居)

ふたりっきりで暗いところとか行っちゃダメだってば。ほだされやすいんだからねほんと。

俺は君の王子さまにはなれないだろうか。
俺の王女は君しかいない。

おりてくるお城と、空にかかるオーロラ。ロマンティックな台詞とかるいBGM。この場面は、世の中ではとんだ猿芝居と悪名高いアレです。 そう。プロポーズです。ぼくと一緒に暮らしましょう。あのお城の中で永遠に。いつまでもいつまでも幸せに暮らしましょう。立っていると危ないですから。

後述する生徒会でも述べられるように、この冬芽からのプロポーズは、明確に最後の逃げ道です。ウテナが何万もの剣に串刺しにされないための。現実と照らし合わせていえば、"売れ残り"(ほんといやな言葉ですね)の"愚かな女"にならないための*1。訂正、ほんとは最後の最後にもうひとつだけあるんですが、ウテナが自らの意志で逃げ道を選択できるとすれば、ココだったってことなんだろうね。しかし、それもまた罠です(劇場版を参照)。

にしてもこの場面の冬芽の台詞、どんなに真剣に聞こうとしても耳がすべるっていうかぜんぜん頭に入ってこないな。ただこれ本気でいってるのですよね。だから余計質悪いっていうか、ついに冬芽がダボハゼから人間へと降格してきたことの顕れかなとか思いつつも、ウテナの返事、「わかった」って。わかっちゃうのかよ。さすがクソビッチ。ヲタサーの姫。サークルクラッシャー。日本三大悪女。ほんとウテナだいすき(皮肉ではなくて)。これで決闘勝っちゃうんだからね。

 

 

☞ 生徒会(銃)

 俺はもう一度闘う。
そして、勝たねばならない。
彼女を救うには、やはりそれしかない。

"世界の果て"を疑うには、もう遅すぎた。冬芽は、"世界の果て"に従うという形でしか、ウテナの棺をそっと閉めてやることでしか、彼女を救うことができません。彼女がほんとうは外に出たいと願ったとしても、彼は、"ウテナのために"忠告します。立っていると危ないぞ。でも、なんの権利があって彼にそんなことがいえるというのだろう。"してあげたい"と"してほしい"の混同。なぜ冬芽は負けるのか。それはこのへん(DUEL:04DUEL:05)をよんでね。

 

 

☞ 影絵少女

おまえ、王子さまなら、馬でもいいのか...

 馬あね。ダボハゼでも鯉でも恋でもタイヤでも。骨だけの魚よりマシですし。しかし、パンだと思った拳銃は、すぐ横に。(参照:DUEL:19

 

愚かだとおもいます。"王子さま"と名のつくものなら、どんなものでも。馬だろうが人間だろうがステキステキ。でもこれって誰のことなんだと思います?ウテナ?アンシー?七実さま?専業主婦志望で婚活パーティに参加する未婚女性(31)?否、これは冬芽からみた、もしくは暁生からみた"女"なんだろうとおもいます。だって、こういう揶揄されるようなキャラクターって出てこないですよね。ウテナは思い出の王子さまに気味悪いくらい固執してるし、七実さまはお兄様一筋、アンシーも最初こそあれだけど、もうそんな感じしないし。世の理を表すような影絵少女だけれども、どんどんボロがでてきます。だって彼女たちは影絵で、アニメで、カオナシで、ただの大衆の代弁者だからです。

 

 

まぼろしのお城(決闘広場)

寓意・寓話・寓エスト」。 

守ってあげたい。

天上。俺がお前を守ってやる。

王子さまからの最後のプロポーズと、

君は必ずぼくが守ってみせるから。

魔女になりゆく英雄の、最後のプライド。

 これはどちらも本気で本音で言ってるんだとおもう。でもウテナは、もうかりそめの王子さまに興味はない。盗んだバイクの刺激より、新車を持った男がいい。守られる喜びより、守ってあげる喜びがほしい。新車を持った男を選ぶことと、誰かを守ってあげたいと願うことは、矛盾します。でも、王子さまでありお姫さま。少年であり、少女。忘れてしまったけど、覚えてる。その矛盾こそがウテナさま。冬芽はウテナに勝てません。

アンシーは、まだウテナをすきです。すきだし、憎んでるし、試しています。"これでもわたしを守るだなんて言える?"。というように。誰かを守ったその先に、何が待ち受けているかも知らないくせに。

 

目撃者の証言⓶

これで君は世界を革命する者となった。
だが、世界の果てにも、薔薇の花嫁にも、心を許してはならない。

それが俺に言える最後の言葉だ。

ウテナは、王子と姫のセンチメンタルな猿芝居を、彼のプロポーズと、それにまつわる世界のルールをついに拒絶しました。 彼女は、暁生の助手席に座った翌日にはもう、盗んだバイクで走り出しているのです。そういう人間です。危ないといわれても大好きなともだちとブランコ二人乗り(しかも立ち漕ぎのほう)しちゃうんです。それが本当に気高き者の証。暁生が求める"穴"です。だけど彼はそれを忘れてしまったから、ウテナからそれをなんとしても奪い取ろうとします。でも奪い取っても穴の空いた心じゃ、すり抜けていってしまうだけだけれど。

さよなら、先輩。

 

☞ ふたりのベッドシーン。

そうして、夜の扉は開きます。

ウテナは幼い頃、この棺を開けないでほしいと願いました。しかし14歳になった彼女は、その願いに応えようとした冬芽を拒絶します。だから棺は開く。それはいたって簡単なことでした。たぶんそれは、時間が過ぎていくことや、思い出を忘れてしまうことぐらい簡単に。子供が大人になるのと同じくらい、簡単に。

ウテナは暁生とアンシーの秘密をついに知ってしまいました。アンシーの"裏切り"に、ウテナはどう応えるのだろうか。かりそめの王子さまは、倒した。残すは"本物の王子さま"だけ。

 

 

☞ LA BANDE

ねえ姫宮。
やっぱりぼくは、どうしても君を許すことができないよ。

VS

ウテナさま。
ご存知でしたか。わたしがずっと、あなたを軽蔑してたってことを。

 

*1:にしても、男とセックスすりゃクソビッチ、一生しなけりゃ売れ残りって。なんだそれ